先月のことですが、千葉県議会の民主党有志で、熊本県の川辺川ダムを視察しました。
川辺川ダムは、熊本県球磨郡相良村の一級河川・球磨川水系川辺川に計画されているダムで、私がこの場でもたびたび書いている群馬県の八ッ場と並ぶ、我が国屈指の長期化したダム事業です。
長期化している以外にも、当初から地元の反対の声があること、治水・利水の面で、必要性が疑問視されていることなど、多くの共通点があります。
視察に行ったのは、地元自治体の反対を受け、この川辺川ダム事業が事実上休止の状態になっているからなのです。
昨年9月、熊本県蒲島知事が「現行計画を白紙撤回し、ダムによらない治水対策を追求すべき」と県議会で表明。計画策定から40年を経て、計画中止に向け大きく舵が切られました。自治体が、国の事業にノーをつきつけるのは、非常に稀なケースであり、新聞などにも大きく取り上げられましたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
この動きに対し国交省は、水害の恐れや水没予定地の五木村の振興計画のとん挫をちらつかせたり、急きょ穴あきダムへの計画変更を提案するなどしましたが、蒲島知事は、その後も一貫して「白紙撤回」の姿勢を貫いています。治水には、他の方法を求めるとともに、五木村には新たな振興策に取り組む決意を表明、穴あきダム案はその効果が疑われると一蹴しています。
実は、知事のこの決断は、声の大きな「反対派」の声に従った結果ではなく、半年にわたる議論を経て取りまとめられた有識者会議の客観的な検討結果を受けたもので、公平な決断と評価されています。また、そのことが国のゆさぶりや「地域振興」を掲げる地元の推進派の圧力に屈しない自信の裏付けになっているのではないかと感じています。
今回の視察では、「走り出したら止まらない」と言われるダム事業を止めるためのヒントを得る一方で、その後、現場はどうなるのか、確認したいという思いもありました。実際、現地を歩いてみると、住民移転や周辺整備は進んでおり、八ッ場ダムの状況と重なるものがありましたが、本体計画地の自然はそのまま残っていました。
ダム建設ありきで移転を進めてきた村をその後、どう支援していくか、クリアしなければならない課題はあるものの、工事が途中で荒れ果てているようなことはなく、止まったことの利点の方を強く感じました。
蒲島知事は、白紙撤回を求める声明を以下のように締めくくりました。
「川辺川・球磨川はかけがえのない財産。この財産価値を世界、子供たちへ伝えていきたい。それが熊本の夢となる。全国に人吉・球磨のブランド価値を高めて発信していこう。民主主義とは対立を超えて結集できること。新たな第一歩を踏み出そう」
まさに、自然というものの真の価値を見極め、対立を超え事業中止で生じる諸問題を共に解決して行こうとする決意に満ちた声明だと思います。
蒲島知事の声明から2カ月後、京都府の山田知事、滋賀県の嘉田知事、大阪の橋本知事らが、淀川水系に計画されていた大戸川ダムの計画中止を求める共同意見を国に提出しました。
ダムは、大きな公共工事であり、計画が進めば当然ながら地元は潤います。しかし、時代を経て形作られてきた自然の価値に換えることはできないと、事業の中止を求める首長たち。
日本の価値観が、地方から変わりはじめているように思えます。